『How to Be Rich』から50年
「現代の通念に反して、成功者がさらに大金を稼ぐことは十分可能である。」
これは、J. Paul Getty(ジャン・ポール・ゲティ)が1965年に書いた著書『How to Be Rich(仮邦題:金持ちになる方法)』にある言葉です。10年以上前に初めてこの本を読み、とても気に入りました。最近になってまた読み返しましたが、変わることなくインスピレーションを受けます。読みやすく、速読できる本ですが(「プレイボーイ」誌に連載されたエッセーとして書かれたもの)、経営者、各種専門的職業の方、スーパースター従業員に至るまで富を築きたいと思っている人への実用的アドバイスが満載されています。
ゲティには巨万の富がありました。彼の資産は、今日の価値でBill Gates(ビル・ゲイツ)とWarren Buffett(ウォーレン・バフェット)の資産を合わせたものを上回っていたとも言われています。 ゲティは、大恐慌の直後に石油会社を格安で買収して富を築きました。『How to Be Rich(仮邦題:金持ちになる方法)』でこのことに触れている部分はわずかです。他の部分では、「金持ちになる最良の方法は、成長企業を所有するかそこで働くこと、そして事業の成長は以下の10程度の常識的な戦略による」という彼の命題を提示しています。 ゲティ曰く、「ビジネスで成功する確実な公式はないが、ゲームには、それを守れば、成功の確率をそのビジネスパーソンにとって格段に有利な方向にひっくり返すことができるある基本的ルールがある」。
そのルールとは以下のような内容です。
- 富を築く最良の方法は、自身のビジネスを所有することである。
- あらゆるビジネスの中心的目標は、より多くの人のために、より低いコストで、より多くのより優れた商品(またはサービス)を生み出すことである。
- 節約意識はビジネスの成功に不可欠である。
- 本物の拡大のチャンスを見落としてはならない。
- 経営者は自身でビジネスを経営しなければならない。従業員が自分のためにそれをしてくれることを期待してはならない。
- 経営者は自社の商品やサービスを向上する新しい方法に対して常に注意を怠ることなく、生産と販売を伸ばさなければならない。
- 自社製品を支持しているという評判ほど速く信頼を構築し、売上を増やすものはない。
別の章では、不動産について語っています。ゲティは、再投資先として不動産を大いに信頼していました。不動産で何億円も稼ぎました。また、美術品への投資についても触れています。ゲティは、ビジネスライフを通じて当時最も素晴らしいプライベート・コレクションの一つを手に入れました。その多くを、カリフォルニア州マリブにある、後のゲティ美術館を含む各地の美術館に遺しました。
従業員の給与に対する彼の考え方は、彼がケチだという評判が誤りであることを示しています。彼は、従業員には競争相手と同等あるいはそれ以上に高い給与を支払うべきだという信念を持っていました。また、重要な社員には、特別奨励金を出す、場合によっては利益を分配するという形でパートナーとして処遇するべきだと考えていました(結果として、かなりの数の重要な社員が金持ちになりました)。
『The Reluctant Entrepreneur(邦題:臆病者のための科学的起業法)』の著者として、私はゲティが、起業家は「大きく考え、ビッグなチャンスに賭ける」べきだという考え方に異議を唱えていることを指摘することができ、嬉しい限りです。彼の成功は「小さく考え」(細部に注意を払うなど)、あらゆる節目でリスクを避けた結果だと彼は言っています。
『How to Be Rich(仮邦題:金持ちになる方法)』では、1章を割いてパッシブ投資についても書かれています。ほとんど知られていませんが、株式のバイヤーとしてのゲティの記録は輝かしいものです。彼の戦略はどのようなものだったのでしょうか? それは、株が安値の時にはっきりとした競争上の優位性のある優れた企業を買収するというものです。
『How to Be Rich(仮邦題:金持ちになる方法)』がゲティによって著されたのは、私が15歳の時でした。当時のアメリカは今とはまったく異なっており、同じルールが今日も通用するだろうか? と思われるかもしれません。
蓄財に関する私の考え方を知っていただければ、私の答えがわかります。それが説得力のあるものかどうか、いくつか見てみましょう。
- 「富を築く最良の方法は、自身のビジネスを所有することである。」
拙著『Automatic Wealth(仮邦題:自動的に富を生み出す方法)』、その他『Ready, Fire, Aim(邦題:大富豪の起業術)』、『The Reluctant Entrepreneur(邦題:臆病者のための科学的起業法)』、近著『The Big Book of Wealth Creation”(仮邦題:富の創造のためのビッグブック)』等で所見を述べています(来月より詳しくお話しします)。 - 「あらゆるビジネスの中心的目標は、より多くの人のために、より低いコストで、より多くのより優れた商品(またはサービス)を生み出すことである。」
これこそ目標にすべきことですが、今日、大企業に何千億円で売れるものを生み出すことが目的だと考えている若い起業家が多すぎます。ですが、この中心的目標は依然として顧客との息の長い関係を築く最良の方法です。 - 「節約意識はビジネスの成功に不可欠である。」
私はこれについては多くを書いていません。おそらく私自身が生来節約に対する「感覚」を持ち合わせていないからだと思います。何人かの知り合いのビジネスパーソンとは違って、私は小さいお金のことであれこれ言いたくありません。しかし、ビジネスにおける節約が重要であることは重々承知しています。ビジネスのコスト面を軽視すれば、最終的には利益が消えます。 - 「本物の拡大のチャンスを見落としてはならない。」
「本物の」がキーワードです。これを「現実的」という意味で言いたいです。つまり、拡大や買収がビジネスにとって良いのは、成功の可能性が極めて高い場合に限られるということです。これに関する私のルールは『Ready, Fire, Aim(邦題:大富豪の起業術)』で説明していますが、それは差が小さい土俵に入るというものです。言い換えれば、最低でも80%を熟知している土俵に進出してください。 - 「経営者は自身でビジネスを経営しなければならない。従業員が自分のためにそれをしてくれることを期待してはならない。」
この点については何度も指摘してきました。会社が大きくなると、経営者は、講演、行事への出席、従業員を鼓舞する言葉を書くなど「楽な仕事」をしたくなります。しかし、そういうことにばかりに時間を費やしていると、売れる商品の開発や販売など、かつて「困難な仕事」をするために必要だった知識やスキルを失うことになります。 - 「経営者は自社の商品やサービスを向上する新しい方法に対して常に注意を怠ることなく、生産と販売を伸ばさなければならない。」
繰り返しになりますが、これも私が多くのエッセーやビジネスの構築に関するすべての著書で取り上げてきたことです。私が推奨する戦略は「漸進的拡大」です。「壊れていなければ直すことはない」の反対です。常に商品を改良しなければ、いずれ競争相手がより良いものを作ってしまう」という信念に基づいています。かつてこれは常に正しい考え方でしたが、今日のインターネット・情報型の経済においては、不可欠です。 - 「自社製品を支持しているという評判ほど速く信頼を構築し、売上を増やすものはない。」
再度申し上げますが、これは今日決定的に重要です。ケーブルTV会社のように実質的な独占状態でもない限り、顧客への対応を間違ったら切り抜けられません。
ですから、答えはイエスです。『How to Be Rich(仮邦題:金持ちになる方法)』で述べられている蓄財に対する考え方は1965年と同様に今日にも当てはまります。そして、ゲティ・オイルのような大企業にも、私が著書で取り上げている中小のベンチャー企業にも当てはまるように思われます。
『How to Be Rich(仮邦題:金持ちになる方法)』をお読みになれば、きっと気に入ると思います。ですが、具体的な例、説明、詳細なガイダンスがもっと欲しいと思うかもしれません。それに関しては本テーマについて書いた拙著で入手いただけます。(そうです、私です!)『Ready, Fire, Aim(邦題:大富豪の起業術)』、『Automatic Wealth(仮邦題:自動的に富を生み出す方法)』、『The Reluctant Entrepreneur(邦題:臆病者のための科学的起業法)』をぜひお読みください。