お手伝いさんが彼を見つけたとき、彼はベッドの上で死んでいた……。
その小さな部屋の空気は息苦しいものだった。アーモンド臭で満たされていた。青酸カリが使われた明らかな証拠だ。食べかけのリンゴが死体の横に転がっていた。しかし、当局は毒の検査をしなかった。
死体には明らかに暴行の痕跡があったが、それでもなお当局は自殺と断定した。
しかし、一部の人はこの判断に異議を唱えている。もっと不正な何かが隠蔽されていると考えているのだ。
犠牲者は第二次世界大戦における最高の暗号解読者の1人であったが、評論家いわく「知りすぎたゆえに殺されてしまった」のだという。
英国人であったこの犠牲者は、米国諜報機関の助けを借りた英国政府によって暗殺されたのだと、長くほのめかされてきた。
しかし、それが証明されることはついになかった。なぜなら、この犠牲者の頭の中には、イギリスとアメリカの両国を葬るに十分な秘密があったからである。
聡明な科学者であり、戦時中の暗号解読者であったアラン・チューリングにとっては酷い最期だった。チューリングのおかげで英国は解読不可能と言われたナチス・ドイツのエニグマ暗号機の解読に成功したのに……。
〜中略〜
チューリングの死は永遠に謎のままだろう。しかし、現在の英国で彼は戦時中のヒーローの1人と認識されている。そしてコンピュータサイエンスと人工知能の先駆者としても知られている。
実際、彼が残した科学の遺産は、現代の世界を形作っている。
1936年、チューリングはチューリングマシンと呼ばれる理論計算機を作った。ハードウェアからではなくソフトウェアから命令を作り出す機械を思い付いたのだ。
これは、現在ではたいしたことには見えないかもしれないが、1936年当時には、ソフトウェアのコンセプトは存在すらしなかった。当初は純粋な理論だったが、結局100%正しかった。チューリングマシンは、あなたが日々使う現代の形のコンピュータを作るための知的青写真として使われることとなったのだ。
考えてみてほしい。コンピュータの普及により、インターネット、ワープロ、スプレッドシート、電子商取引などたくさんのものが生まれてきた。1936年のチューリングの仕事は、まさに現在、我々が生きているこの世界の技術的基盤となっている。
もしあなたが、テクノロジーがいかに重要かということを認識していれば、コンピュータ時代を形作った企業に投資して、何億円も稼ぐことができただろう。インテル、シスコ、マイクロソフト、Dell、オラクルなどだ。
今日、世界には20億台以上のパーソナルコンピュータがある。投資の観点から見ると、コンピュータ業界のトレンドを追うことで人生を変えるほどの富を得られる時代は、もう過ぎ去ってしまった。業界にはすでに、数万倍も価値が上がった企業で溢れている。
そこで私は、チューリングの仕事の第二の分野、つまり人工知能(AI)について話そうと思う。チューリングのAIに関する研究が今世紀に与える衝撃は、チューリングマシンが20世紀に与えた衝撃を超える可能性があるからだ。
コンピュータが20世紀後半を定義したのと同じように、21世紀は私が「ロボット頭脳」と呼ぶ人工知能によって定義される。
この人工知能の分野での先駆的な研究により、テクノロジー業界における次の巨人になろうとしている企業があるのだ。
この「ロボット頭脳」の大手メーカーは、今後5年間で50%も上昇する可能性がある。のちほどその企業の未来について話をしよう。しかし、まずはどうして筆者が他の企業ではなく、この企業を選んだのかを知ってもらいたい。
それは65歳のチューリングの“秘密”を利用することと関係がある……。
人工知能を機能させる秘訣
1950年10月、チューリングは「Computing Machinery and Intelligence」(計算機械と知能)という論文を発表した。
この論文で、彼はコンピュータがどのように考えるかというプロセスを明らかにした。
チューリングによると、大人の頭の中を作ろうとするよりも、もっと単純な子供の頭の中を再現し、それを教育していくほうがいいということである。
つまり、最初は単純だが、のちに複雑な思考ができる機械に成長していく自己学習機械を作るというアイデアだ。子供が成熟して大人になるのと同じプロセスである。
当時、これは革新的なアイデアだった。科学者のあいだでは「大人の頭の中」を作るほうがいいというのが一般的だったからだ。65年後の今日では、チューリングの「子供の学習」モデルがAIを発達させる最良の方法であると考えられている。
今回紹介するのは、チューリングの「秘密」を採用し、実践している企業だ。この企業が開発する自己学習型チップは、すでに600万台のデバイスに搭載されている。「経験」を処理し、そこから学習していくのである。
したがって、同社の「チップ」を搭載した機器は、どんどんと精度を上げ、よりよい意思決定をおこなうことができる。そして、こうした「ロボット頭脳」チップの需要が爆発間近なのである。
「ロボット頭脳」によるメガトレンド
人工知能の需要は●●と●●という2つの産業によって牽引されている。両産業ともゴールは同じだ。●●のマシンである。
テクノロジーの専門家はこれを●●トレンド、すなわち●●と呼んでいる。
●●によるあらゆる可能性を考えてみてほしい。●●が実現すれば、●●は激減し、●●率も低下し、●●は過去のものとなるだろう。
しかし、可能性はそこで終わらない。●●と呼ばれる●●にも応用できる。より一般的に知られた名前でなら、あなたも知っているかもしれない。●●のことだ。
〜中略〜
しかし、このような未来を実現するためには、すべての●●に「頭脳」が必要なのだ。
●●や●●のためには、現在のコンピュータでは処理しなくてはならない変数が多すぎるのだ。言い換えると、これらの機器はすべて自ら判断を下せるようにならなくてはならない。そこで登場するのが、筆者イチ押しの企業だ。